バックナンバー
2009年10月号 しみじみ、うまい宿4軒 白根の見える丘
達人がおすすめする1万円で泊まれる温泉宿 Part2
味には一家言!
しみじみ、うまい宿4軒
選・文:小林しのぶ
写真:松澤暁生
豪華な懐石料理ではないけれど、素材にこだわった料理が自慢の温泉宿を厳選。湯に浸かり、美味い料理を楽しめる味な宿だ。
白根の見える丘
[尻焼温泉・群馬県]

こだわりとオリジナリティーの時代
旅館の夕食は、品数が多かった時代、高級食材を少しずつ盛り付ける"量より質"の時代を経て、今はこだわりとオリジナリティーを大事にする時代。自家菜園の野菜や手作り調味料など、安全・安心できる食材を使ったり、楽しい料理シーンを盛り込んだりする宿に人気が集中している。ブランド牛やイセエビなど高級食材は料金を払えば全国どこでも手に入る。が、宿の主人手作りの料理は、そこに行かなければ味わえない。漬物ひとつでさえ、買えないのだ。
これから紹介する宿は、ご馳走がずらりと並ぶ高級旅館ではない。しかし、味には一家言持ち、どの料理もしみじみとうまい。心から満足できる宿、健康になれる宿だ。
手作りを究める名水料理

東・西・南・北、そして天と地。この6つに支配され、「国」がある。群馬県の六合(くに)村の名前の縁起という。「白根の見える丘」は、六合村の秘湯・尻焼温泉からさらに山間の道を上った、小さな集落の中にある。看板がなければ民家と間違えて通り過ぎてしまうだろう。玄関前に立っても不安になるほど、宿としての派手なアピールはない。
何はともあれ、まずは1階奥のデッキに出て風景を眺めてほしい。何十種類もの木々を抱える深い森、手前から遠くへ、幾重にも連なる稜線、そして山頂付近に雪のように白い山肌をみせる草津白根山の美しさに感動する。「まずは水を一杯どうぞ」。
主人の中村善弘さんに進められるままにコップを口にする。うまい!刺激がなく、甘く、まろみがある。宿の料理と飲み物すべてに使われているこの水は、環境省選定「日本の名水百選」に選ばれた箱島湧水。隣接する東吾妻町に湧き、主人が1日おきに往復4時間かけて汲みにいく。10Lタンクと4Lタンクを背中に、5Lタンクをそれぞれ両手に持ち、駐車場から湧水池まで歩いて2往復。大変な重労働だ。水の量と汲みに行く時間との兼ね合いから、宿泊は1日4組が精一杯という。
女将のひろ子さんは、1日中キッチンに立っている。それはもう、朝から晩まで立っている。「調味料の仕込みやソース作り、野菜を漬けたり、こんにゃくやすいとんを作ったり、あと豆腐作りがありますし」。
(後略)
小林しのぶ(こばやし しのぶ)
旅行ジャーナリスト。千葉県生まれ。年間150日以上が旅の生活。温泉、駅弁、島、酒など幅広い得意分野があり、宿泊・取材したホテルや旅館は約2000軒。著書に『ニッポン駅弁大全』(文藝春秋)、『どんぶりこ』(交通新聞社)など。
![]()

表紙写真:
白根の見える丘[群馬県尻焼温泉]
(松澤暁生)





