こだわり1万円宿 第3回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

千葉県

道の駅
保田小学校学びの宿

廃校となった小学校校舎が
交流施設の場として新たに開校

客室には黒板や
小学生用の机も
保田(ほた)駅から少し海岸に寄り道して、新しい道の駅へ向かった。クルマの進入路を過ぎると、かつての保田小学校の校門が残っていた。ザラッとした切り石積みの校門は、鋸山(のこぎりやま)周辺の房州石らしい。

その奥が、都市交流施設・道の駅保田小学校だった。右手には平屋の大きな建物があり、正面は洒落た2階建て。1階に飲食店など様々な施設が連なっていた。

里山を眺めて食事ができる里山食堂、房州石で作ったピザ窯があるイタリアンのダ・ペ・ゴンゾ、鋸南(きょなん)百貨店快、こども広場。まちのコンシェルジュでは、鋸南町の変化に富んだ情報を提供してくれる。さらに先には、中国料理3年B組やリラクゼーションルームもあった。

学びの宿のフロントも兼ねるまちのコンシェルジュで、チェックインした。部屋に荷物を置いてから、道の駅全体を探検。宿泊代を払うと、「2年1組」という鍵を渡された。今晩泊る部屋。入浴施設里の小湯に入る時は、暗証番号と返金式コインロッカー用に100円玉が必要なこと、部屋はオートロックでないこと、部屋の外側に設けられた和みの空間まちの縁側は17時以降になると宿泊者専用スペースになること、門限は基本的に22時であることなど、諸注意を聞いてから部屋へ。

2階に上がって2年1組に入ると、かつての黒板や畳のベッドと寝具、そしてブーゲンビリアが咲いているまちの縁側が目に飛び込んできた。確かに、教室以外の何ものでもない。一つの教室を等分し、二つの客室に仕立ててある。だから、こちらの部屋には縁側への出口がない。低い窓を乗り越えて縁側に立つと明るく華やかな空間で、無機質な教室に彩りを添えている。17時前なので、一般の人も散策を楽しんでいた。

元体育館を再利用した
直売所で地元の味を堪能
客室には、テレビ、冷蔵庫、ポット、小学生用の椅子やテーブル、黒板消しやチョークもあった。部屋をチェックしてから、里山市場きょなん楽市をのぞいた。元体育館なので、天井も高く広々としている。里山食堂名物「穴子丼弁当」(土・日曜、祝日限定)を、明日の朝食用に確保。極めつけの地物純米酒「道の駅保田小学校」と出会い、迷うことなく寝酒に指名した。里の小湯のコインロッカーは10人分なので、これが最大限の利用者数か。浴場はそれほど広くなくて、カランは5つ。湯槽も6人がいいところだろう。

夕食は、ダ・ペ・ゴンゾへ。道の駅内の食堂は、どこも18時前に閉まるが、ここだけは金・土・日曜、祝日に限って、22時まで営業しているのだ。ワインを傾けながら、房州産鯨の赤ワイン煮やシラスのピザなど地元らしいものを摘まんだ。

翌朝、前日購入した穴子丼弁当を食べた。穴子まるまる2尾分をさっくり煮上げ、その下に角切りの卵焼きやキュウリ、味付けシイタケが散らしてある。冷たくなっても、納得の味だった。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書に『日本《島旅》紀行』『吐噶喇列島』『旬の魚を食べ歩く』『島で空を見ていた』。
近著は『島̶瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』

(ノジュール2016年6月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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