お悩み解決!旅するカラダ 第34回

生活習慣病としての痔

松崎智彦先生
(文:湯浅真弥 イラスト:安齋 肇)

痔も生活習慣病の一種と考えられるようになりました。
誰にでも起こる危険性はありますし、
生活習慣に気をつけることで予防も十分に可能です。

痔の種類と治療法

「痛い」「恥しい」といって治療をためらう人がいます。
放っておくと生活に支障をきたしかねません。
あなたに最適な治療法が見つかるはずです。

「痔の治療イコール手術」は
もはや昔の話
痔核(じかく)や裂肛(れっこう)、痔ろうの肛門三大疾患を「痔」と呼びます。

まず、痔核とはいわゆるイボ痔のことです。肛門にはクッションの役割をしている部分がありますが、肛門に負担がかかることで、この部分の機能が損なわれ、腫れたり出血したりします。これが痔核です。

痔核が進行し、肛門から粘膜組織が飛び出すこともあります。それが脱肛です。次に裂肛とは、いわゆる切れ痔のことで、便秘によって便が硬くなり過ぎたり、あるいは下痢によって便が軟らかくなり過ぎたりすると、肛門に過剰な圧力がかかり肛門組織が切れて起こります。

細菌感染により肛門周辺に炎症が起こり、膿のたまる病気が肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)です。この多くが痔ろうを起こします。

痔ろうは、あな痔ともいい、膿を出すために直腸と肛門にトンネルができる痔です。また、痔ろうは放置すると10年以上たってからがん化することがあるため、発見次第、適切に治療しなければなりません。

現在、痔の治療法としては、薬物療法を中心とする保存的治療が行なわれており、患者さんのセルフケアを含めて生活指導も行なわれています。

薬物療法では痔に抗炎症薬やかゆみ止めなどを直接塗ったり、入れたりする外用薬と、腫れや痛みを抑える消炎鎮痛剤や化膿止めの抗生剤などの内服薬を用いるのが一般的です。さらに、痔を誘発する便秘を予防する目的で、便を軟らかくする緩下剤や整腸剤を追加することもあります。

痔核の治療には、痔核の根元にゴム輪をかけて血流を阻害することで、組織自体を壊え死しさせて除去するゴム輪結さつ法や、痔核にALTA注射などの硬化剤を直接注射して出血や腫れを緩和させる硬化療法がこれまで用いられてきました。

全体的に手術は減少傾向にあります。また、超音波メスやレーザーメスの導入により、日帰り可能な手術がこれまで増えてきました。「痔の治療イコール手術」というのは昔の話です。先述のとおり、現在では、手術以外の治療法はいくつもあり、自身の症状に最適の治療法を選ぶことができます。またその際、自身の希望を伝えて、納得したうえで治療を進めてください。

セルフケアと漢方薬による予防

痔を生活習慣病と捉えるならば、
上手につき合っていくことが大切です。それには
セルフケアと体質改善に有効な漢方薬が役立ちます。

効果をあげる
ハイブリッド治療
痔を予防するうえでポイントとなるのは肛門への負担を減らすことです。肛門に圧力のかかる便秘や下痢を避け、排便習慣を整えなければなりません。便秘予防には、適度な水分と食物繊維の摂取、規則正しい食事、腹筋運動やウォーキングなど、下痢の予防には、暴飲暴食や過度の飲酒を控えること、お腹を冷やさないことが必要です。

また、細菌の感染を防ぐために、温水便座を使用するなどして、肛門周辺を清潔に保つようにしてください。ただし、洗いすぎや拭きすぎは肛門皮膚炎や裂肛を引き起こします。

さらに、長時間、同じ姿勢でいないことや下半身を冷やさないことです。これらは血行を悪化させます。そこで、入浴、特にぬるめのお湯でゆっくり入浴することにより、血行をよくすることも大切です。

座薬や軟膏によって症状が改善したとしても、原因を解消しなければ、痔と上手につき合えません。

また、中国では、消痔霊(しょうじれい)という注射薬を使った痔核の硬化療法を行なっています。この消痔霊をもとに日本で開発されたものが先に述べたALTA注射です。

このように痔と漢方薬は深い関係にあり、体質改善に大きな役割を果たしています。

痔の種類や状態によって用いる薬剤が異なるため、ここで具体例をあげることは控えますが、私はこれまで西洋医学と東洋医学を組み合わせた複合的医療(ハイブリッド医療)で痔の治療にあたってきました。もちろん、漢方薬を嫌がる患者さんに無理にすすめることはしません。

最後に、漢方薬を健康保険の適用から外す、さらには、診療科目から肛門外科を除外させるという意見が一部にあることを非常に残念に思っています。

(ノジュール2016年8月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
ご注文はこちら