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江戸のへそから文化の杜へ

上野公園今昔さんぽ

文:黒田涼 写真:安達征哉

「上野といえば動物園」…だけじゃないんです。
いまや国立西洋美術館をはじめ、文化施設が並ぶ大人のスポットに。
江戸時代の寛永寺から現代の〝文化の杜〞へ。
歴史を辿って、江戸歩きの達人・黒田 涼さんがご案内します。

上野公園は、
寛永寺の境内だった
上野の森は駅の西側、JR線上の台地に広がる。江戸時代は将軍家菩提寺、寛永寺(かんえいじ)があった一帯で、明治維新(彰義隊<しょうぎたい>戦争)時の官軍に倣い、上野広小路(ひろこうじ)駅から北へと向かった。駅名は江戸時代の防火地「広小路」にちなみ、上野公園前交差点から入ったところが、彰義隊戦争最激戦地の「黒門」があったところだ。

公園内正面には、大きな黒い壁に噴水が流れ、かつての黒門をイメージして最近整備されたもので、実際の門は左側、噴水広場に通じる道にあった。今は多くの人が右の階段を登って行くが、維新時そこは崖。下から攻撃する官軍はずいぶん手こずったことだろう。階段を登ると、官軍を直前まで指揮した西郷隆盛の銅像と彰義隊戦死者の慰霊塔がすぐそばで並び、慰霊塔裏の林内には寛永寺建設をプロデュースした天てん海かい僧正の毛髪塔もある。

彰義隊戦争や第二次大戦の空襲を逃れた清水観音堂(きよみずかんのんどう)は国の重要文化財で、堂内右上の壁に掛けられた大きな絵馬に彰義隊戦争の様子が描かれている。注目は右端、二階屋から銃撃している官軍の姿がある。高台の彰義隊を攻撃するため、官軍は広小路の商家二階に上ったのだ。絵馬の右にはさびかけた砲弾が2個。現在の東大医学部あたりから撃ち込まれた佐賀藩のアームストロング砲弾だという。これで彰義隊は一気に敗走した。

お堂の前は広い板張りで、京都の清水寺と同じ「懸(かけ)造り」のミニチュア版。お堂の名も京都から取っている。実は上野の森全体が京都のコピーなのだ。「東叡山(とうえいざん)寛永寺」は京都鬼門守護の「比叡山延暦寺(ひえいざんえんりゃくじ)」をなぞり、江戸の鬼門に置かれた。舞台の上から眺める不忍池(しのばずのいけ)は琵琶湖で(位置がおかしいが)、辯天堂(べんてんどう)のある島は竹生島(ちくぶじま)に見立ててわざわざ作った。これは、京都から江戸に政治の中心が移ったことを表す幕府の壮大な仕掛けなのだ。

なお、この仕掛けを現代に利用したのが滋賀県の長浜市。長浜市内には古い観音像が多い。そこで同市の情報発信のため、上野の〝琵琶湖〞のほとりに昨年、観音堂に見立てた空間を作った。「びわ湖長浜KANNONHOUSE(カンノンハウス)」には、2ヵ月交代で1体の観音様がやってきて無料で鑑賞できる。「厨子(ずし)に見立てた市内産ヒノキの柱の中で、日常から離れてくつろいで下さい」と学芸員の浦田綾子さん。観音様を全方位から眺められるモダンな観音堂にぜひ足を運んでみよう。

金色に輝く本殿に
徳川家康を祀る
清水観音堂下から噴水広場への道を上ると、左手に明治8年(1875)に建てられたという韻松亭(いんしょうてい)がある。豆腐料理を中心とした会席料理店で、湯葉や呉汁(ごじる)、豆ごはんなどを鮮やかな色合いで提供してくれる。昼食はここがイチ押しだが、土日は大混雑するので平日が狙い目だ。韻松亭の隣には、江戸時代からの時の鐘と、その向かいには焼け落ちてしまった上野大仏の顔がある。上野大仏は最近、「(これ以上)落ちない」にあやかり、受験生に人気がある。

続いて徳川家康を祀る上野東照宮へ。近年の修復で黄金の輝きを取り戻した重要文化財の社殿に向かい、全国の大名が寄進した石や銅の灯籠がずらりと並ぶ様は圧巻。参道からはこれも重要文化財の旧寛永寺五重塔がよく見える。 動物園正門前を抜けていくと、何度か上野に来たことがある人は、「パンダ焼きの店と子供遊園地がないぞ」ということに気づくだろう。実は2つとも昨年閉鎖されてしまった。正門前に広場を作る東京都の上野公園再生計画。ここ数年の上野の森のイメチェンはこの再生計画が源で、2008年から「文化・芸術、歴史、水とみどりを体感でき、世界に向けて開かれた公園にする」という目的で進められ、ほぼ完成に近づいた。

たとえば清水観音堂前の「月の松」。枝が曲げられ月のように円を描き、観音堂から覗くと中に辯天堂が収まる。これは明治初年まで実際にあり、歌川広重も『名所江戸百景』に描いた名物で、「文化的景観の復元」として2013年に再生された。噴水広場も様変わり。噴水を小さくして近寄れるようにし、1万人規模のイベントスペースを確保した。目につく両サイドのおしゃれなカフェは、土・日はいつも行列だ。

駅側のパークサイドカフェは、木を多用した落ち着いた空間で、フレッシュハーブティーは生ハーブがポットで出て来る。「昼はいつも混み合ってご迷惑をおかけしていますが、夜は空いていてオススメです」と山岡祐司店長。そう、夜の噴水広場もいい。以前は両側の森に低木が生い茂り見通しが利かなかったが、大木中心の森になったいまでは夜でも安心して歩ける。

(ノジュール2017年4月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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