50代からの旅と暮らし発見マガジン

こだわり1万円宿 第13回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

滋賀県

鳥羽や旅館(とばやりょかん)

彦根城のお膝元「旅籠」の風情を残す老舗旅館

江戸時代は料理屋
部屋の意匠も見事な宿
彦根駅から10分少々歩いた銀座交差点付近は、彦根一の繁華街になっていた。彦根といえば城周辺のイメージが強いので、目から鱗だった。左折して驚きは増した。しっとりとした町並みが続き、立て看板には最近重伝建地区になったと書かれている。「鳥羽や」は、交差点のすぐ先だった。向かいには鮮魚店や青果店があり、活気溢れる生活臭が漂い、いい感じだ。

玄関に入ると、明治31年の彦根発汽車時間表や歴史を感じさせる暖簾や提灯などと、テレビ、木版画などがしっくり溶け合い、落ち着いた空間になっていた。

宿の主人が、部屋は2階でトイレは1階だけ、風呂は一ヵ所だが朝9時まで一晩中使える、門限はなく道の向こうは昔の遊郭で今も飲み屋がひしめく不夜城だと、教えてくれた。トイレは、洗浄機つきだ。夕食は18時半から21時まで、朝食も7時から9時までと融通が利く。ロビーの自販機には、ビールも入っていた。

案内された松の間は、すでに布団が敷いてある。6畳間だったが、奥に1・5畳ほどの広縁があり、本床の間もついているので狭い感じはしない。梁の何ヵ所かに精巧なハマグリの釘隠しがある。植物画の描かれた床の間の天袋の引手は、凝った意匠だった。入口側の壁の上の細かな格子も美しい。一室に、新建材と昔の匠の技が同居しているのは、ご愛敬か。宿の創業を聞くと明治13年だという。「でも、お客さんの部屋は、江戸時代のものです」

宿をはじめる前は、料理屋だったというのだ。通路の壁に江戸時代末に、「鳥羽や」の前身鳥羽屋清八の店で行われた「多賀神事好寄講(たがしんじすきよりこう)」の「献立覚」が張ってあり、興味深い。鯉切身子付、鮒膾子付、あわびふくらに、磯かき、ます切身など、日常食とかけ離れた豪華な品がずらりと記されていた。

思いがけず出会った重伝建の町並みは、宿がある商店街の河原町よりその奥の芹町(せりまち)の方が、古らしいたたずまいだった。

この料金でこの料理!
丁寧な仕事に大満足
この料金でこの料散策を終えてから、風呂へ。18時半過ぎに食堂へ行くと、3人連れのビジネス客が盛り上がっていた。並んでいた料理は、この宿泊料金で、と思う上々の内容。

メインは、すき焼き。肉は3枚だが、上質の近江牛と思われる溶けるような味わい。タイとマグロの刺身、サバの切身の塩焼き、オクラのゴマ和え、身欠きニシンのうまみをよく含んだナスの煮物、ホタルイカの酢味噌和え、タケノコとシイタケの煮物など、どれもていねいな仕事だった。日野菜漬けも、素材本来の味わいが分かる一品。さすがに、元は料理屋(江戸時代の話だが)だっただけあり、伝統をよく受け継いでいる。さらに嬉しかったのは、ビールの大瓶が税込み500円!

ひと風呂浴びてからいただいた朝食も充実していて、笹ガレイの素揚げ、名物赤コンニャクも入った筑前煮の他、7品が並んだ。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書は『日本《島旅》紀行』『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2017年4月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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