50代からの旅と暮らし発見マガジン

こだわり1万円宿 第14回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

茨城県

伊勢屋旅館
(いせやりょかん)

明治の頃まで名料亭として知られた真壁町の宿

まさに「旅籠」の
イメージ
登録有形文化財の宿
重伝建の街並みと、登録有形文化財の宿があるので、一度訪れたかった真壁だが、駅からタクシーで行くしかなく、行きそびれていたら、昨年10月から半年間の期限付き(4月以降も継続決定)でバスの実証実験運行が始まった。

真壁のひなまつり開催に合わせて行きたかったが、宿の予約が取れない。そこで、ひなまつり後の3月中旬に出かけることにした。筑波山口始発の実証実験バスには、数人のお客が乗っていた。

終点の市役所庁舎周辺は閑散としていたが、重伝建地区に近づくと立派な蔵や長屋門の屋敷が目に付きだした。そして、旅籠(はたご)を思わせるたたずまいの伊勢屋が、ひょいと顔をのぞかせた。

主屋と土蔵が登録文化財だ。伊勢屋は大正時代までは勢州楼と呼ばれた真壁で最も有名な料亭で、ここで宴席を設けられれば一人前の男と認められたという。

玄関先の帳場には「勢州楼」という書や明治42年に嫁いできたお祖母さんの押絵羽子板、明治8年の精巧な人形、戦前のひな人形、使い込んだ長火鉢など、時代を感じさせるものが並んでいる。

主屋は、三代前の田中萬蔵により明治中期に建てられたそうだ。

細かな気配りと
気取らない料理が魅力
勝手に主屋に泊まれるものと思い込んでいたら、昭和40年代に建てられた新館奥の6畳に通された。窓から、立派な土蔵が見える。

若女将の田中良枝さんに部屋を変えて欲しいと頼むと、玄関上の10畳間に案内された。通りに面した側に狭い廊下もあり、屋並みの向こうには筑波山が望まれ、開放感に溢れている。

その時、襖一枚隔てた隣に、お客が帰ってきた。彼らは最初から古い建物指定なので、隣室にして気を使わないようこちらには奥の部屋を充てたのだという。隣の2人は、やたらに声が大きい。「ここで食事だけしますか?」

雰囲気のよい明治の10畳間では、食事だけとることにした。

部屋の件が解決してから、重伝建の街並みを小1時間巡って、近くの蔵元村井醸造で寝酒を買って帰り、順番を待って風呂を終えると、6時半を過ぎていた。

夕食が冷めているのではないかと心配したが、食卓には長芋の千切りと里芋などの煮物、自家製タクアンだけが置いてある。すぐに、マグロ、ホタテ、アマエビの刺身、温かなコンニャクの味噌田楽が並び、ほどなくして焼きたてのポークソテーが出てきた。

おかずを摘まみながらビールを1本あけたころに、ご飯、青菜と豆腐の味噌汁が来た。気取った料理ではないが、渋い重伝建の宿はこれで十分。そう思いながら、田舎料理を美味しくいただく。

翌日は、同じ10畳間で8時から朝食。シラスおろし、納豆、煮豆、ハムサラダ、味付けノリに、熱々のオムレツとシジミ汁もある。しっかり腹ごしらえして、荷物を預かってもらい、夕方近くまで真壁の重伝建三昧をした。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書は『日本《島旅》紀行』『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2017年5月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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