50代からの旅と暮らし発見マガジン

こだわり1万円宿 第21回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

愛媛県

民宿 なたおれの木

カラフルな家並みがお出迎え
漫画アートの島のゲストハウス

今治の北東に浮かぶ
面積1.3㎢の小さな島
今年になって、瀬戸内海の真ん中燧(ひうち)灘に浮かぶ高井神島(たかいかみしま)にゲストハウスができたと聞いた。宿や港に面した家々の外壁には、有名漫画家のキャラクターが描かれているらしい。一体、なぜ?

三原駅前の桟橋から高速船に乗り、しまなみ海道の島と周辺の小島が織りなす多島海の絶景を縫いながら、因島(いんのしま)の土生(はぶ)港に到着。さらに、魚島(うおしま)行きに乗換え、目的地を目指す。高井神島北端の岬を回りこむと、一塊になって斜面を埋める家々が現れた。

自治会長の木村定(さだむ)さんが案内してくれた一番港寄りの建物は、外壁に御茶漬海苔というホラー漫画家の、キャラクターが描かれていた。玄関に、「民宿なたおれの木」という看板がある。ここが宿らしい。

中は予想以上にしっかりした造りで、玄関の左手に港に面した食堂、その奥に広いキッチンがあり、冷蔵庫や炊飯器、調理器具、皿やコップ、茶碗など、自炊のために必要な一通りのものが揃っている。奥には、温水洗浄便座や清潔な風呂もあった。客室は、1階に6畳が2間あり、一方には立派な床の間も設えられ、精選した材が使われていた。また、2階には6畳の和室とシングルベッドを置いた洋室が一つずつある。グループならば、10人くらいまで泊まれるのではないか。これを一人で使わせてもらうのは申し訳ない。

精算システムは少々変わっていて、宿泊表に住所・氏名・連絡先・年齢を記入して、宿泊料と共に備え付けの箱に投入するというもの。もちろん、直接渡してもいいが、木村さん不在の時でも利用可能らしい。これまで知人友人を泊めていて、私が正式な宿泊許可を取って初めての客だという。

島おこしの一環で始めた
ゲストハウス
海岸に沿って歩くと、『パギャル』、『まいっちんぐマチコ先生』、『つるピカハゲ丸』、『船宿美幸丸』などのキャラが、家々の壁を飾っていた。公民館の壁には、『Dr.コトー診療所』がデカデカと描かれている。

木村さんは、13年前親の面倒を見るために帰郷した。翌年、親交のあった実業家の長谷部理(おさむ)さんが島へ遊びに来て、たちまち島に魅せられてしまった。すぐに、家を借りリフォームして、毎月山梨から島通いをするようになる。

木村さんと長谷部さんは、島おこしのキッカケにしたいと、島の家々の壁を漫画で埋めることを思いついた。著作権者の許可を取って、3年前に初めて描かれたのが『Dr.コトー診療所』だった。

今回も、足場が組まれ漫画を描くばかりの家が2軒あり、上島町のクリーンセンターやタンクにも描くことが決まっている。港に面した家の壁は、大半が漫画のキャラで埋め尽くされるという。

長谷部さんの提案と出資で、リフォームが実現した宿も、島おこしの一環だ。ちなみに、ナタオレノキは伐りつけた鉈の方が折れてしまうほど材質が硬い樹木で、島の神社の象徴となっている。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書は『日本《島旅》紀行』『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2017年12月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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