50代からの旅と暮らし発見マガジン

こだわり1万円宿 第26回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

北海道

銀婚湯

広大な森で隠し湯めぐり
渡島(おしま)半島の名泉・上の湯温泉

銀婚さんも新婚さんも…
木立の中に佇む秘湯
函館から北へ約70㎞。落部(おとしべ)駅からしばらくは田園風景が続いたが、やがて山間(やまあい)に入ると緑濃い宿の敷地だった。

森の中に点在する野趣豊かな隠し湯が面白そう。まだ他の客はいないというので、一番遠くの単一源泉で濃い温泉だというトチニの湯に挑戦することにした。

宿泊者専用の貸切野天風呂隠し湯は5つあり、入浴したい時はフロントで空き状況を確認し、鍵代わりの入湯札を受け取る仕組み。

トチニの湯の入湯札と隠し湯の場所を記した地図を受け取り、玄関前の雑木林へ入ると、炭焼きのため伐採した跡などにしかない株立ちのモミジが目立つ。意図的に集めたという。苔の見事さにも目を見張った。

飛び石が林の中を縦横に縫っていた。飛び石が終わると、右手に姿がすっきりとしたかつら並木が現れた。そちらへ行けば、隠し湯のかつらの湯と杉の湯がある。

左へ進むと、長さ30mほどの吊り橋が落部川に架かっていた。渡ったところで、小径は三股に分かれた。左手はもみじの湯へ続き、右手に行けばどんぐりの湯、林の中を道なりに真っすぐ進めば、トチニの湯に至る。

バラエティに富む
野天風呂巡り
シラカバ林を抜けると、丸太を積み上げた一角に、小さな門が見えた。トチニの湯だった。入湯札を所定の場所に差し込み、施錠する。まず目に飛び込んだのは、川べりの高台に設えられた杉の丸太をくりぬいた湯舟。淡いオリーブ色のささ濁りの湯が溢れている。川向2号という単一源泉で、一番濃いお湯だという。

その先に続く飛び石を辿ると、渓流を見下ろす場所に木材で畳んだ四角い湯舟もあった。どちらもやや温めの絶妙な湯加減で、ついつい長湯してしまった。

一度部屋まで戻り水分を補給して、第2弾は2番目に遠いどんぐりの湯へ。葦簀(よしず)を張った扉を開けると階段があり、数m下ると丸い川原の石で畳んだ、自然を満喫できる露天風呂があった。

続いて、かつらの湯へ行くことにした。階段を登った上にあるかつらの湯は、葦(よしず)簾で囲まれていて秘密基地のよう。駒ケ岳から運んできた35tもの巨岩をくりぬいて作った湯舟と、丸太の洞うろのような脱衣場があった。湯舟に浸かって空を見上げると、かつらの繊細な枝が包み込んでくれ、眺めているだけで心地よい。

夕食は、凝った前菜12種類の盛合わせ、アブラコ、ホタテガイ、ボタンエビの刺身盛合わせ、キンキのソテー、豚肉の柔らか煮、カニのしんじょ揚げなど揚げたての天ぷら、サクラガレイ、ミズダコ、ツブガイのカルパッチョなど。地元の食材を豊富に使い、工夫された料理だった。仕上げは、カボチャの炊き込みご飯とワラビの味噌汁、自家製の漬物。デザートは、黒豆のレアチーズケーキだった。

22時近く、落部川を模した長さ17mの渓流の湯と露天風呂へ浸かり、温泉三昧の1日を終えた。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書は『日本《島旅》紀行』『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2018年5月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
ご注文はこちら

定期購読のお申し込み

バックナンバー

書店一覧