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ホッとする冬の味覚を旅の目当てに

全国「10大鍋」の宿

文:山口あゆみ、狩野直子(スケープス) 写真:合田慎二、入江啓祐

寒い冬の味覚の大定番、鍋料理。
その土地ごとの"いちばん美味しい食材"を味わえる料理だけに、旅先で食す醍醐味は何物にも代えがたいもの。
立ち上がる湯気の向こうに旅情が香る、わざわざ足を運んで食べたい、10大名物鍋と宿をご紹介します。

【兵庫県】なごみの香風の宿 さだ助 松葉ガニ鍋

絶品の松葉ガニを鍋で味わい尽くす丹後半島から島根県沖の日本海に生息するズワイガニは「松葉ガニ」と呼ばれ、漁の解禁は11月。まさに冬の味覚の王様だ。日本海のなかでもこのエリアはとくに美味しいカニが育つ環境に恵まれ、濃厚で上品な甘みがある松葉ガニは、クセがなくさまざまな調理法で楽しめる。だしにも凝縮された旨みが出るので、カニ鍋は最適というわけだ。

兵庫県香住(かすみ)地区にある創業から約50年の温泉宿「さだ助」は、地元でも数少ないカニの仲買人が営む宿だ。

カニと温泉。この時期だけの贅沢を心ゆくまで

香住地区には香住漁港と柴山漁港の2つの港があり、水揚げされたカニは大きさや形、鮮度によって厳しくチェックされ、100近い細かなランクに分けられる。目利きの主人によって選ばれたカニの味の確かさに惚れ込んで、毎年通う常連客も少なくないという。直接仕入れの恩恵は、リーズナブルな価格にもうかがえる。

こちらのカニ料理はひとり1・5杯から提供されるが、年に一度の贅沢だからとひとり2杯ずつ食べられるコースを選ぶ人も多いとか。刺身、焼きガニ、茹でガニと、抜群の鮮度だからできる多彩な食べ方も産地ならでは。松葉ガニらしい濃厚な味、香り、甘みとコクが相まって、口福な時間が堪能できる。食べるうちに気付けば口数は少なくなり、無心にカニを頬張っている。寒いこの季節に最高のご馳走のカニ鍋は、たっぷりの昆布だしに野菜とカニを入れてポン酢でいただく。そのシンプルさがカニの上品さを最大に引き出している。もともと農業を営んでいたので、米は現在も自家栽培している。野菜は地元産で新鮮そのもの。カニの旨みを吸った野菜の美味しさもまた格別だ。締めの雑炊はだしの旨みを味わうために火を通し過ぎず、卵でとじてさらりと仕上げるのがお勧め。カニ肉のたっぷり入った絶品の一杯で食事を締めくくろう。心地よい満腹感とこの上ない満足感を味わった後は、温泉で極上のひとときを。

直営の「KAN-ICHI」では、さだ助と同じ仕入れのカニをお土産に購入することも可能だ。

(ノジュール2019年1月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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