いつまでも元気に旅しよう!病に勝つカラダ 第2回

いつまでも若々しく元気に活動したいし、旅行にも出かけたい。
そのために病気にならないカラダ作りを予防医学の観点から毎号お届けします。

旅で認知症予防

白澤卓二先生
(文:大政智子 イラスト:安齋 肇)

加齢とともに増える、もの忘れや記憶力の低下。
ある程度は仕方ないことですが、予防法があるのならぜひ知っておきたいもの。
実は、脳を若々しく保つには、旅が有効なのをご存知でしょうか?
旅に出るだけで脳は活性化します!旅で脳を思う存分働かせましょう。

知的好奇心と運動が
脳を活性化する
超高齢化社会を迎えた日本では、心身ともに活動的で、ボケという言葉とは縁遠い生活を送る高齢者がいます。その一方で、外に出かけることもなく、新しいことにチャレンジする気力もないという人もいます。

この差はどこにあるのでしょう?

食生活や運動、睡眠なども関係していますが、もうひとつの大きな要素、知らないことや新しいものに興味を持つ〝好奇心〞の強さも影響します。

2013年に東北大学加齢医学研究所が発表した報告によると、成人400人を対象に、ある時点での知的好奇心のレベルと、8年後の脳萎縮加速度とを解析したところ、知的好奇心のレベルが高い人ほど、脳の認知機能を担う重要な領域の減少が少ないことがわかりました。

つまり、知的好奇心が強く、さまざまなことに興味を持つ人ほど認知機能の低下が少なかったそうです。知的好奇心は「脳を活性化させる最高の栄養剤」と研究班は報告しています。

東北大学の研究班はそこからさらに踏み込み、旅行会社と協力して「旅行が認知症予防にもたらす効果の研究」を開始することを、2016年に発表しました。

60歳以上の男女45人を対象に実施したプレ調査では、「頻繁に旅行に行くことや、明確な動機をもって旅行することなどが、認知症のリスクを低下させる可能性が示された」そうです。

旅に出ると、知らない場所に行ったり、新しい経験をしたりするので「知的好奇心」が刺激されます。また、歩く機会も増えます。実は歩くこと(有酸素運動)も認知症予防に大きく役立ちます。

フィンランドで65〜79歳の男女1500名を対象に行った「高齢者と運動」の調査では、運動をまったくしないグループと、少なくとも週に2回運動をしているグループでは、後者のほうが認知症を発症するリスクが半分に減っていました。また、アメリカのピッツバーグ大学は55〜80歳の男女120名を対象に、有酸素運動を行うグループと有酸素運動以外の運動を行うグループに分けて、記憶を司る脳の海馬(かいば)の状態を比較する調査を行いました。すると、有酸素運動のグループでは海馬の体積が増大していたのです。

実は、有酸素運動を行うと、海馬の成長を促す物質が増え、それが海馬の体積を大きくし、認知機能を高めることがわかってきています。

運動や好奇心以外にも
こんな効果が!
旅の効果は知的好奇心の刺激や運動だけではありません。「いつ」「どこに」「どうやって」旅をするか、現地で何をするかなど、具体的なプランをたてることも、脳の活性化に役立ちます。

なぜなら、脳は加齢以外にも、「使わない」ことで働きが鈍くなってしまうからです。時刻表を調べたり、旅行先の歴史や見所を調べたり、地元のおいしい飲食店を探したり、旅に出る前の下調べは脳をフル回転させてくれるでしょう。

自分で計画する個人旅行でなくともいいのです。ツアー旅行だって知らない場所に行って新しい体験をするわけですから、脳へのよい刺激になります。

泊まりの旅行がおっくうであれば、日帰り旅行でもかまいません。泊まりでも日帰りでも、旅には知らない場所に行く「ドキドキ」や「ワクワク」があります。

こうした旅行を楽しむことによる「リラックス効果」や「ストレス軽減」は、認知症予防はもちろん、健康長寿に大いに役立ちます。

また、旅に出て体験するすべてのことが、脳を刺激してくれるでしょう。

ヒトは風景(視覚)だけでなく、ほほをなでる風(触覚)、若葉や花の香り(嗅覚)など、小鳥のさえずり(聴覚)など、五感をフルに使って情報を得ています。旅先で実体験することは、テレビやインターネットで得られる情報とは情報量が格段に違うのです。

旅のいいところは、コミュニケーションにも役立つことです。人と会って話すことは、前頭葉(ぜんとうよう)をめいっぱい使います。旅先で地元の人とのコミュニケーションを楽しんだり、旅の思い出を家族や友人に話すことも、脳への刺激となり認知症予防に役立ちます。

何より、旅に出るためには、ある程度の体力と健康が必要です。体力を維持するために有酸素運動をしたり、健康に気をつけるでしょう。認知症予防だけでなく健康長寿に役立つ旅に出かけませんか。

しらさわ たくじ●1982年千葉大学医学部卒業後、東京都老人総合研究所などを経て、
2007年より順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。
2015年より白澤抗加齢医学研究所所長。米国ミシガン大学神経学客員教授。
www.shirasawa-acl.net

(ノジュール2017年2月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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