いつまでも元気に旅しよう!病に勝つカラダ 第4回

いつまでも若々しく元気に活動したいし、旅行にも出かけたい。
そのために病気にならないカラダ作りを予防医学の観点から毎号お届けします。

血管若返り術 ②

池谷敏郎先生
(文:大政智子 イラスト:安齋 肇)

加齢とともに硬くもろくなる血管。
でも、私たちの体にはもともと、血管を守り、自動修復させるバリア機能が備わっています。
その機能を左右するのが、血管の内側にある血管内皮細胞です。
血管内皮細胞の機能は血流を良くすることで活性化します。
運動が苦手な人でもできる簡単セルフケアをご紹介します。

私たちの体に備わっている、
驚くべき機能
私たちの体に必要な酸素や栄養を届けている「血管」。

その血管も、加齢とともに老化しています。老化した血管壁は弾力性がなくなって硬くなり、しなやかさを失って動脈硬化が進行していきます。

しかし本来、私たちの体には、その動脈硬化の進行を抑え、血管を若々しく保つための驚くべきメカニズムが備わっているのです。

そのメカニズムのカギを握るのが、血管の一番内側をびっしりと覆っている「血管内皮細胞(けっかんないひさいぼう)」です。

血管内皮細胞は血管を守るバリアのようなもので、傷ついた血管を修復し、血栓ができるのを抑制して血管を保護しています。例えるなら、紫外線や外界からの刺激を遮断する皮膚と同じような役割があります。

つまり、血管内皮細胞の機能がきちんと働いてさえいれば、血管は多少のダメージを受けてもすぐに回復できるのです。

血管内皮細胞から分泌されている一酸化窒素NO(エヌオー<NitricOxide>)は、〝血管を拡張させて血流をよくし、血圧を安定させる〞働きがあり、血管内細胞は、血管の状態に応じてNOを分泌します。NOがバランス良く分泌されていれば、高すぎず、低すぎない、正常な血圧が保てるのです。

そして、NOのもうひとつの大切な役割が〝血管内のキズを修復し、血管を保護する〞メンテナンス機能です。

最近ではNOの分泌量が減少すると、血管内皮細胞の機能が低下し、動脈硬化の始まりになると考えられているほどです。つまり、NOが適切に分泌されているかどうかが、血管を若々しく保つためのカギとなるのです。

NOは加齢とともに減少しますが、喫煙や運動不足、偏った食生活などもNOを減少させる原因となります。また、冷え症で血流が悪い人や、血圧が高い人は、もともとNOが不足していると考えられます。

NOの分泌を促す最適な方法は血流をよくすること。血行促進というとマッサージなどを思い浮かべがちですが、実は、有酸素運動が最も効果的なのです。有酸素運動を行うと、筋肉からブラジキニンという物質が分泌されます。ブラジキニンにはNOの分泌を促す作用があり、体内の血流がよくなると、さらに多くのNOが分泌し、いい循環が生まれるのです。

毎日の体操でNOを
ドンドン増やそう
有酸素運動の代表はウォーキングですが、運動習慣のない人でも気軽にチャレンジできるのが、血管の名医・池谷敏郎先生が提唱する「ゾンビ体操」と「さびしんぼう体操」です。「ゾンビ体操」はその場でできる効率のよい有酸素運動で、たった数分やるだけで全身の血流がよくなり、やればやるほどNOが増えます。やり方は簡単です。

ゾンビ体操のやり方

  1. おなかに力を入れてへこませ、背スジを伸ばしてまっすぐに立つ。両手は肩の力を抜いて自然に下ろす。
  2. その場で1分間、足踏みする。ジョギングするとより効果的。
  3. 同時に、上半身はイヤイヤをするようにねじる。肩を前後に動かし、両腕は自然にブラブラと揺らす。
  4. 1分間続けたら、ゆっくりと足踏みしながら30秒間呼吸を整える。
  5. 1〜4を3回繰り返す。これを1日3回行う。

もう一つの「さびしんぼう体操」は、体をキュッと縮めて血管を一時的に収縮させたあとで、一気に解放する体操です。寝る前の少しの時間を使って行いましょう。

さびしんぼう体操のやり方

  1. 布団の上に手足を縮めて〝さびしそう〞に体を丸める。
  2. 1分間経ったら、布団に横になって、全身を解放するように手足を伸ばしてブラブラさせる。
  3. 1〜2を2回行う。

NOのいいところは、ちょっとした運動でもすぐに分泌することです。速効性があるので、この二つの体操で血流が良くなれば、NOがどんどん分泌されて血管内皮細胞の機能が高まり、血管年齢の若返りが期待できます。どちらもほんの数分でできる簡単な運動なので、毎日実践してみるといいでしょう。

いけたに としろう●1962年生まれ。
東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。1997年より池谷医院理事長兼院長。
血管、血液、心臓など循環器のエキスパートとして、数々のテレビ番組に出演。
歯切れのいい医学解説が好評。
www.iketaniiin.com

(ノジュール2017年4月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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