50代からの旅と暮らし発見マガジン

こだわり1万円宿 第16回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

岩手県

岩手の名湯 侍の湯 おもてなしの宿
おぼない

座敷わらしの里・金田一温泉郷の料理宿

馬淵川のほとりに佇む
南部藩指定の古湯
金田一(きんたいち)温泉駅から宿の送迎車で、繁華街の面影を残す旧国道4号線を走っていくと、田園地帯に宿が点在する金田一温泉郷が現れた。

清らかな水の流れる馬淵(まべち)川を渡り左折すると、割烹旅館おぼない・侍の湯という看板が見えた。金田一温泉は寛永3年(1626)の開湯で、南部藩指定の湯治場だったため、侍の湯と呼ばれる。

不思議空間のロビーには、大木の輪切りテーブル、稲穂、木挽き用鋸、繭玉、虎とライオンの剥製などが置いてある。雰囲気に幻惑されて立ち尽くしていたら、若女将が部屋へ案内してくれた。

歌手の細川たかしが泊ったという2階の部屋は、8畳と6畳の和室に椅子や鏡を備えた広縁がついている。トイレや洗面所は、部屋のすぐ近くにあった。

お茶を飲んでひと息つき、大浴場へ向かう。一瞬、浴室の入口と見間違ったのが、床に立派な白木の一枚板を張り、小さな坪庭まで作られた空間。手前に御化粧処と刻まれた大きな石碑があったので、ようやくトイレと分かった。

滋味あふれる
郷土の味を
海・川・里の
豊かな食材で
風呂は天井の高い大浴場が一ヵ所で、浴槽は浴場の真ん中寄りにあり、段差はなく急に深くなっている昔のタイプ。80年前に建てられた時のままだという。

透明で肌触りのなめらかな気持ちいいお湯が、かけ流しになっている。ラドンを含んだ弱アルカリ性単純泉で、pHは8。源泉は34℃ほどで加温しており、朝6時から夜の11時半まで入浴できる。

軟らかなお湯が溢れる湯口の脇に、化石のノジュール(団塊)があった。若女将に確認すると、馬淵川の河原に落ちていたもので、夏休みには自由研究のため拾いにくる子どもも多いという。

食事自慢の宿で予約時に迷ったが、基本的な「一人旅&いちげんさん大歓迎プラン」を選んでいた。それでも、やっと平らげることができたほどの充実ぶりだった。

お膳の上で炊きあがっているきのこご飯の米は、きらほというご当地期待の新品種。まだ作っている人が少なく貴重らしい。翌朝は、きらほにイナキビを混ぜて炊いたホタル飯が出された。

夕食のメインは、豆腐や菊の花、ねぎ、白菜などと共にたっぷりタラの白子が入った鍋や、地元ブランド豚のすき焼き仕立てなど。

八戸から直送の刺身盛合せには、手て毬まり寿司も添えてあった。2日かけて仕込むという黒カレイの焼き魚は、上品な脂がたっぷりで、口の中でほろほろと崩れる。

さらに、熱々のアユの塩焼き。温泉水を利用した養殖ものだが、夏には馬淵川の天然アユも並び、7月の解禁後1ヵ月ほどは、アユの刺身も提供しているとか。

他にも、馬肉と高菜の炒め物、たたきメカブのイクラ添え、茶碗蒸し、クルマエビを添えた野菜の煮物など。食べ終えると、心地よい疲労感が襲ってきた。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書は『日本《島旅》紀行』『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2017年7月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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