50代からの旅と暮らし発見マガジン

こだわり1万円宿 第18回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

秋田県

駅前旅館

思わぬ巡り合わせも旅の醍醐味
五能(ごのう)線の「駅前旅館」

能代観光の拠点に
今や稀少な駅前旅館
7月初頭、観光列車「リゾートしらかみ」で能代(のしろ)駅を通過した時、「駅前旅館」という看板が一瞬見えた。かつて、それなりの街ではよくあった宿名だが、今や絶滅しかかっている。しかし、能代では健在らしい。その時は、それだけの印象だった。

翌日、予約していた友人お勧めの能代の宿に電話をして、愕然とした。1日、間違っていたのだ。本日は満室だという。自分の勘違いだから、文句も言えない。

仕方なくネットで周辺を探したが、手頃な宿がない。そこで思い出したのが、能代駅で垣間見た駅前旅館。電話すると、泊まれるという。緊急避難的に決めた宿なので期待はしていなかったが、電話でのやり取りで、外れではないとの確信はもっていた

午後3時半頃駅前旅館に着くと、2階の部屋に通された。床の間付きの8畳の和室。水回りも清潔で、洗面所には使い捨て歯ブラシや洗濯機もある。トイレは、もちろん洗浄機付きだ。

これから、旧料亭金勇(かねゆう)と光久寺、風の松原に行きたいというと、自転車を無料で貸してくれた。場合によってはタクシーを使わねばと思っていたので、ありがたい。

旧料亭金勇は、かつて東洋一の林業の街として栄えた能代のショーウィンドーというべき建築物で、今では幾らお金を積んでも入手困難な素晴らしい秋田杉を惜しげもなく使い、昭和初期に作られた。見学だけなら無料だが、200円払うと専門のガイドが案内してくれるというので、お願いしてみた。説明されるたびに、派手ではないがいかに貴重な材をふんだんに使っていたのかが分かり、驚きの連続で頼んだ甲斐があった。

秋田の旬の味覚豊かな
コスパ上々の食事
サイクリングから戻ると、まずは浴室へ。湯船があるものとシャワーのみのものと2つある。使う時は、それぞれ入浴中の札をかけ、施錠すればいい。フェイスタオル、バスタオルも用意されていた。

入浴後、部屋に夕食が並んだ。カレイやサツマイモ、ピーマンの素揚げの盛合せ。刺身は、サーモンとイカ。焼きたての殻付きホタテガイ。地方色の濃い、ニシンの切込み。旬のジュンサイもある。そして、牛肉、ハクサイ、しめじ、豆腐などのすき焼き風の鍋にカブの漬物。宿代を考えると、とても充実した内容だ。さらに、ビールの大瓶を1本注文した。

朝食は2階の食堂で、7時半過ぎに行くと相客はみな食事を終えて仕事に向かった後だった。壁の張り紙を見ると、ビール大瓶500円とある。嬉しい値段だ。

朝食は、サケの切り身、カイワレの薄焼き卵巻きとロースハムとサクランボの盛合せ、昆布の佃煮、納豆、味付けのり、そら豆、モロッコインゲン、キュウリの漬物、ジュンサイの味噌汁、ヨーグルト。コーヒーは自由にどうぞ。ボリュームも旬の香りもたっぷりだった。

突然泊ることになった宿だが、こんな旅先での出会いが楽しい。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書は『日本《島旅》紀行』『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2017年9月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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