50代からの旅と暮らし発見マガジン

こだわり1万円宿 第19回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

香川県

ハウス・オーシャン・フロント

人口10人の塩飽(しわく)諸島の宿で
瀬戸内の絶景を独り占め

海辺の素泊まり宿で
暮らすように過ごす
定期船の着く里浦(さとうら)、南側の小浦(こうら)と二つの集落がありながら、今や10人しか住んでいない牛島に、新たな宿がオープンした。といっても、初めて牛島を訪れた20年以上前にはあった建物。今から30年ほど前の昭和の末、バブル全盛期に建てられた別荘だという。

場所がいいので、とても目につく。定期船も接岸しない静かな集落小浦の一番外れに海に面して建っている。建物の前に立てば、瀬戸大橋の南側や讃岐富士の愛称がある飯野山をはじめとするぽこぽこと聳えるかわいらしい山々、高さ158mの展望塔ゴールドタワー、志々島(ししじま)や粟島(あわしま)、その向こうには荘内半島も望まれる。

すぐ下は磯を小砂利が埋めた浜になっていて、海水浴やカヌー(要持参)が楽しめるし、自炊用の巻貝やカメノテ、カキ、ワカメ、ウニなどを採ることも可能だ。

さらに、海岸を左手に回り込めば、瀬戸大橋が一望される。潮がよく引いた時、そのまま北へ回り込んでいくと、里浦を経由し、歩いて海岸線を一周できるという。

高齢になった持ち主が、親しくしていた牛島の横山敬子さんに、この別荘を譲ったのだ。素晴らしいロケーションを多くの人に楽しんで欲しいと、横山さんはリフォームし、素泊まり宿をはじめた。

内部はどうなっているのか、早速泊まりに行った。以前、高松周辺が台風による高潮で大きな被害を受けた時、この建物も土台が崩れ、かなり大規模な嵩上げを行っているので、海岸から高さ5mはあるテラスからの見晴らしは抜群だった。ひっきりなしに行き交う船を眺めているだけで、すぐに1時間くらい経ってしまう。

リゾートホテルの
ような
贅沢な眺めの風呂
平屋の建坪は100㎡弱で、広い居間と6、7人くらい座れそうなカウンターとオープンキッチン。奥には、8畳の和室が二つ。うち一つは、襖がなくオープンな空間になっていた。目につくのは、荒削りの丸太の柱や梁。内部は完全にログハウスで、作った人のこだわりが伝わってくる。

一番奥には、トイレと風呂。浴室の手前にはサウナもあるが、これは使えないという。建物の南東の角にある浴室には、海に面して大きな窓が二つあり、目の前に広がる海を一望できた。冬場には、浴槽に浸かったまま四国本土から昇る朝日を拝めるという。

最近ここに泊まった男性が、新婚旅行はぜひここに来たいと言っていたそうだが、リゾート以上にリゾート的な立地なので、嫁さんも喜ぶことだろう。ただし、旦那が食事を算段してあげればだが。

夕食は、丸亀で買ってきたホウボウやアナゴの煮つけ、牛島のトマトやメロンと玄米ご飯を自炊。

うまい地酒を傾けながら、沖行く船、瀬戸大橋の灯、坂出(さかいで)や丸亀の工場地帯のライト、そして、十五夜に近い月や負けずと瞬く星々、天空を翔ける飛行機などを眺めていると、時の流れが止まってしまったように感じられた。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書は『日本《島旅》紀行』『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2017年10月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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