いつまでも元気に旅しよう!病に勝つカラダ 第11回

いつまでも若々しく元気に活動したいし、旅行にも出かけたい。
そのために病気にならないカラダ作りを予防医学の観点から毎号お届けします。

予防接種で肺炎対策

大谷義夫先生
(文:大政智子 イラスト:安齋 肇)

日本人の死因第三位の肺炎。気温が低く乾燥しがちな冬は、カゼをひきやすい季節。
高齢者や免疫力が落ちている人は、カゼから肺炎を併発することも。
日常での感染予防も大切ですが、予防接種を受けることで、発症リスクが下がり、症状が軽く済むこともあります。
今月は、肺炎球菌ワクチンの賢い受け方をご紹介します。

65歳以上の人は肺炎に要注意!厚生労働省のデータによると、肺炎は日本人の死因第三位。そのうちの約95%を65歳以上の高齢者が占めています。肺炎とは私たちの周囲にいる細菌やウイルスに感染し、それらが肺まで入り込んで炎症が起こった状態で、特別な病気ではありません。

症状が軽い場合は、発熱、タンを伴うセキが続き、息苦しさや胸に痛みを感じる程度で、カゼの症状と似ています。重症化すると命に関わることもありますが、元気であればそこまでひどくなるケースはほとんどありません。

ただ、高齢者は体力が落ちて免疫力も低下しているので、重症化しやすい傾向があります。また、呼吸器疾患、糖尿病、心臓病などの持病がある人も重症化しやすいので注意が必要です。

肺炎の予防策としては、うがいや手洗い、マスクなどで細菌やウイルスを体内に入れないようにすることが有効です。歯みがきで口腔内の雑菌を少なくすることも大切。起床時は口の中の雑菌が増えているので、朝食前の歯みがきがすすめられています。

栄養バランスのいい食事やたっぷりの睡眠、適度な運動を心がけて自分に備わっている免疫力を高めることも大切です。禁煙をするだけでも十分肺炎予防になります。

こうした日常生活での感染予防も大切なのですが、65歳以上であれば「肺炎球菌ワクチン」の接種を検討してみてはと、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫先生は言います。

ワクチンは、ウイルスや細菌の毒性を弱めたり、無毒化したりしたもの。予防接種は、ワクチンを体内に注射して抗体をつくり、ウイルスや細菌に対する抵抗力をつけます。その結果、同じ病原菌に感染しにくくなるのです。

肺炎の原因でもっとも多くを占めているのが肺炎球菌という細菌による感染で、全体の約30%。そのため、厚生労働省は65歳以上の高齢者に「肺炎球菌ワクチン」の接種を推奨しています。これにより肺炎にかかりにくくなったり、かかったとしても症状が軽くすみます。日本での研究報告もあり、三重県の高齢者施設で、肺炎球菌ワクチンを接種したグループと接種しないグループに分けて比較したところ、ワクチン接種群で肺炎球菌性肺炎及び肺炎全体の発症が低下しています。また、肺炎球菌性肺炎発症者の死亡率は、非接種群が35・1%に対し、接種群は0%でした。

2種類ある
「肺炎球菌ワクチン」を賢く活用
現在、受けられる「肺炎球菌ワクチン」は2種類あります。

ひとつはシニア対象の23価肺炎球菌ワクチン(A)で、平成30年までは、65歳以上の方は対象となる年度(65歳・70歳・75歳…と100歳まで5歳間隔)に、公費助成を受けることができる定期接種です。公費助成を受けない場合は任意接種となり、65歳以上であればいつでも接種が可能です。

もうひとつは乳幼児も接種できる13価肺炎球菌ワクチン(B)です。こちらは65歳以上であればいつでも受けることができますが、任意接種なので公費助成はありません。

免疫がつく肺炎球菌のタイプが違うので、両方を受けた方が効果は高まります(同日接種は不可。一定期間をおいての接種となる)。また、Bは免疫記憶がつきやすく、効果の長期持続が期待できます。せっかく予防接種を受けるなら、賢く効果的に受けたいもの。

例えば現在65歳の人なら、今年度にAを接種して、1年以上空けてBを接種しましょう。66〜69歳(定期接種に該当しない年齢)であれば、Bを接種しておいて70歳になる年にAを接種します。すでにAを接種している場合は、5年後にAを再度接種する6カ月以上前にBを受けるとよいでしょう。

費用はAが7000〜8000円、Bが1万円程度です。公費助成は自治体によって異なりますが、半額程度のケースが多いそうです。詳細はかかりつけ医に聞いてみてください。

予防接種には、副反応を心配した否定的な意見もありますが、命にも関わる重症化が避けられ、感染の拡大を抑制できるなどメリットがあります。

免疫力が低い高齢者や持病がある人は、積極的に活用すべきと大谷先生も言っています。検討してみてはいかがでしょうか。

おおたに よしお●池袋大谷クリニック院長。
群馬大学医学部卒業後、九段坂病院内科医長、東京医科歯科大学呼吸器内科医局長などを経て2009年にクリニック開院。
テレビ、ラジオ、新聞などメディアへの出演も多く、呼吸器、アレルギーの専門医として知られている。著書に『長引くセキはカゼではない』(KADOKAWA)など。
http://otani-clinic.com/

(ノジュール2017年11月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
ご注文はこちら