いつまでも元気に旅しよう!病に勝つカラダ 第14回

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「ヒートショック」に要注意

池谷敏郎先生
(文:大政智子 イラスト:安齋 肇)

冬に増えるのが入浴中の死亡事故。
主な原因は急激な温度変化によるヒートショックです。
体感温度が急に変わることで、血圧が大きく変動し、血管事故や溺死を招きます。
特に高齢者に多いヒートショック。
この冬、注意したいことを紹介します。

急な温度変化による血圧変動が原因ヒートショックとは住居内の暖かい場所から、暖房の効いていない寒い場所に移動したときなどに、血圧が大きく変動して起こる健康被害です。

失神したり、心筋梗塞や脳梗塞などの血管事故を招いたりすることもあり、生命に直結する危険な状態です。

ヒートショックでもっとも心配なのが入浴中の死亡事故。東京都健康長寿医療センター研究所の報告によると、2011年の1年間で約1万7000人が入浴中のヒートショックに関連して死亡し、このうち約1万4000人が高齢者と推計されています。

入浴中に多いのは、脱衣場や浴室の室温が10℃以下など寒いところで血圧が急上昇した状態から、温かい湯船に入って血管が拡張して、血圧が低下することが原因といわれています。

急激に血圧が低下すると失神してしまうことがあり、それによって溺れて亡くなるケースが多いそうです。

また、血圧の変動で血管に負担がかかり、脳や心臓の血管が詰まったり切れたりすることも少なくありません。

ヒートショックは気温が低くなる12〜2月に急増するので注意が必要です。特に、高齢者は血圧が変動しやすくリスクが高いので、次のような対策で普段から気をつけましょう。

もっとも効果的な予防策は、脱衣所や浴室を暖かくしておくこと。脱衣所は暖房器具を設置すればOKですし(電気ストーブ利用時は、タオルなど燃えやすいものへの引火に注意)、浴室は入浴前に数分、高い位置からシャワーでお湯を放出することで浴室全体が暖まります。

蛇足ですが、トイレもヒートショックのリスクが高い場所なので、コンパクトで速く暖まる暖房器具を備えたほうが安心です。

お湯を張るときには、好みもありますが、あまり熱すぎない温度で。東京都健康長寿医療センター研究所は41℃以下の設定をすすめています。

さらに、空腹時や飲酒時は血圧が下がりやすいので、その時間は入浴を控えたほうが安心です。

住居内の温度管理でヒートショックのリスクを下げるほか、普段から血管を鍛えたり、入浴法を工夫することも有効です。血管の名医、池谷敏郎先生(池谷医院院長)にお話を伺いました。

今月は、石原新菜先生のすすめるお腹を温める「温活」をご紹介します。

血管を鍛え、入浴前には準備体操を血管事故を予防するためには、血管をしなやかに、丈夫にするのが何よりです。それに役立つのが以前も紹介した「ゾンビ体操」(17年4月号)。これを1日3回行えば、切れにくく、詰まりにくいしなやかな血管になります。

また、入浴前にも水分補給に加えてゾンビ体操を。脱衣場や浴室を暖めておくのも大切ですが、ゾンビ体操で体を動かせば体内から温まります。

脱衣場は服を脱いだときに寒くない、心地よいと思う環境にしておきましょう。

入浴方法にもコツがあります。池谷先生曰く、ポイントは「オヤジのように湯船につかり、出るときは年寄りっぽく」です。

具体的には、入浴するときには「あーーー」と声を出して息を吐きながらゆっくりと入ります。息を吐くことで血圧の急上昇が予防できます。

湯船から出るときは「どっこいしょ」と浴槽に手をかけてゆっくりと出ましょう。湯船から急に立ち上がると血圧も変動しやすいので、ゆっくり動くのがポイントです。

池谷先生がおっしゃるには「湯船は雪山と同じ。『眠らない』ように言い聞かせましょう。寝ると死ぬのは湯船も雪山も同じです」とのこと。お風呂で倒れて救急車を呼ばれると恥ずかしいもの。そうならないように普段から血管を鍛えておきましょう。

  1. おなかに力を入れてへこませ、背スジを伸ばしてまっすぐに立つ。両手は肩の力を抜いて自然におろす。
  2. その場で1分間、足踏みする。ジョギングするとより効果的。
  3. 同時に、上半身はイヤイヤをするようにねじる。肩を前後に動かし、両腕は自然にブラブラと揺らす。
  4. 1分間行ったら、ゆっくりと足踏みしながら30秒間呼吸を整える。
  5. 1〜4を3回繰り返す。これを1日3回行う。

いけたに としろう●1962年生まれ。
東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。
1997年より池谷医院理事長兼院長。血管、血液、心臓など循環器のエキスパート、血管の名医として、数々のテレビ番組に出演。
著書に『血管を強くして突然死を防ぐ!』(PHP文庫)など多数。
http://www.iketaniiin.com/

(ノジュール2018年2月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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