こだわり1万円宿 第24回

旅ライターの斎藤潤さんおすすめの、一度は泊まってみたい宿を
「予算1万円」に厳選して毎月1宿ご紹介します。

宮崎県

割烹旅館磯亭

コストパフォーマンス抜群!
日向の漁師が営む料理宿

5月まで愉しめる
外浜で獲れた岩ガキ
宿は、高鍋駅前から踏切を渡って数分歩いた海岸にあった。

玄関脇の幟のぼりには「高鍋牡蠣」の文字が見える。高鍋牡蠣(以下、岩ガキ)はすべて天然で、店や宿がそれぞれ素潜りで採って提供しているという。

宿のフロントには、採ったばかりの岩ガキがたくさん入った網籠を担いで、海から浜に上がってきたウェットスーツ姿の漁師の写真が飾られていた。

岩ガキ料理の提供は、10月から5月にかけて。200m沖のテトラポッドの向こう側で採るという。3mほどの深さまで潜り、岩にしっかりとへばりついた岩ガキを、ノミのようなカキ打ち専用の道具で、叩いて剥がしとる。

1日の採取量は決まっており、海が荒れると出漁できない。「海に出るのは、漁期の半分かな」と、宿のご主人。

高鍋から川南(かわみなみ)にかけ、沖に大きなゴロタ石が転がっていて、岩ガキはそれにくっつき成長する。「採るのは9時から12時頃で、1日3時間。ウェットスーツを着ているので体は大丈夫だが、手足が冷たくて大変だ」

特に美味しくなってくるのは、身が太ってくる2月から3月。

高鍋牡蠣の歴史は古く、江戸時代にはカキ好きの殿様もいたという。当時は、ウェットスーツなどなかったからボロ着などを身にまとい潜っていたそうだが、さぞかし重労働だったことだろう。

小ぶりながらも
口に広がる濃厚なうまみ
通されたのは12畳の部屋で、窓からなだらかな汀線(ていせん)がのびる砂浜と日向灘が一望された。

岩ガキ料理の宿泊プランは、基本的な牡蠣プランとそれに牡蠣の土手鍋が追加されるプランがあったのだが、予約は普通のプラン。

並んだ岩ガキ料理は、焼きガキ、酢の物、フライ、カキ入り寄せ鍋、カキ飯。生ガキもうまいのだが、保健所の指導でお客には出せないという。

他にも、ミミガーの燻製やボリュームのあるサワラなど地魚の刺身も登場。さらに、クチダイという魚や豆腐、野菜の揚げ出しまでやってきて食べきれそうにない。

もちろん、岩ガキが優先だ。

岩ガキの風味が一番よく分かるのが、焼きガキ。水のきれいな外海で育っているからだろう、カキ独特の癖というか臭いはほとんどないが、うまみは濃い。それでいて、あと味はさわやか。また、必死にへばりついているからだろう、貝柱が太く食べ応えがある。

日本海側で見かけるような大きさの岩ガキではなく、大人の手のひらより小さい。殻のわりに身が小ぶりなのも、天然だからか。

どの岩ガキ料理もうまかったが、焼きガキは追加してもう少し食べたかったほど。しかし、そのくらいで止めておいたのが一番よかったかもしれない。

食事だけも可能で、地元の人も岩ガキを食べに来ていた。

牡蠣プラン以外にも、地魚磯料理プラン、伊勢海老プラン、牡蠣・伊勢海老プランなどもある。

さいとうじゅん●1954年岩手県生まれ。ライター。テーマは島、旅、食など。
おもな著書は『日本《島旅》紀行』『島ー瀬戸内海をあるく』(第1〜第3集)、『絶対に行きたい!日本の島』、『ニッポン島遺産』、『瀬戸内海島旅入門』などがある。

(ノジュール2018年3月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
ご注文はこちら