いつまでも元気に旅しよう!病に勝つカラダ 第17回

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うつに勝つ食事

奥平智之先生
(文:大政智子 イラスト:安齋 肇)

働き盛りに多いと思われているうつ。
実は、高齢者にも少なくありません。
うつと認知症の症状には似ているものが多いのです。
背景に栄養学的な要因が潜んでいることがわかってきました。
今月はうつにならないための食事をご紹介します。

「鉄不足」と「炎症」がうつを招く厚生労働省が行った「平成26年患者調査」によると、うつ病などの気分障害で医療機関を受診している患者数は110万人を突破。平成8年の調査結果に比べ3倍近く増加しています。

年代別では40代が19・6%ともっとも多いのですが、50代は14・4%、60代も17・3%とシニア世代もけっして少ない数値ではありません。

若い年代と異なり、高齢者のうつは憂うつ感やイライラなどよりも、腰や脚の痛みやしびれ、胃がムカムカするなど体の不調や不安感を訴えることが多いのが特徴です。

うつに陥るメカニズムはいまだ十分に解明されていませんが、栄養学的な因子も関係していることが、最近、話題になっています。

今月はうつと食事の関係について、奥平智之先生(山口病院精神科部長)にお話を伺いました。奥平先生はこれまでの臨床経験から「心の不調の約7割は食事が関係しています。うつなどの精神疾患には、食事や栄養を改善し、ストレス耐性と自己治癒力を向上させることが重要」と言います。

特にカギとなるのが「鉄」。鉄が欠乏すると、全身の細胞がエネルギー不足になって、心身にさまざまな不調が起こるうえ、幸せやときめき、やる気などを感じにくくなったり、眠りが浅くなったりしてうつ状態に陥りやすくなります。

これは、鉄がエネルギー産生だけでなく、幸福感ややる気をもたらす脳内神経伝達物質をつくりだすために欠かせない、重要な栄養素だからです。

鉄欠乏に陥る要因はいくつかありますが、高齢者の場合は肥満や脂肪肝、糖尿病、ストレス状態、腸内環境の悪化などが原因で体の炎症が増し、それによって鉄がうまく吸収できなかったり、利用できなかったりして起こるケースが多くみられます。

炎症とは細胞の損傷や異物の侵入などに対して、体を守ろうと治癒を促進させようとする生体の反応です。

高齢者は持病があることも多く、生活習慣病などにより慢性的な炎症が起こりがち。そのため、鉄欠乏状態に陥りやすく、心に不調をきたしやすい状況にあります。体内の慢性炎症を防ぐことはうつ予防になり、そのためには「食生活」の見直しが重要です。

鉄欠乏回復食でココロもカラダも元気奥平先生がすすめる「鉄欠乏回復食」のポイントは「鉄を補うこと」と「炎症を減らすこと」。

高齢者では特に後者が重要です。炎症があると、せっかく鉄を摂っても鉄が腸から吸収されず、腸内環境が悪化するだけ。もちろん、不足している場合は鉄の補給も大切です。

炎症を減らすには、まず食事の糖質量を見直しましょう。糖質は甘い菓子類のほか、ごはんやパン、めんなど主食に多く含まれています。お菓子やジュースを減らすのはもちろんですが、主食も食べ過ぎないように。会席料理のように、最後に主食を食べると、食べ過ぎ予防になります。

また、青魚に多く含まれるEPAやDHA、エゴマ油、アマニ油など、オメガ3系脂肪酸と呼ばれる油は炎症を抑えます。積極的に摂りましょう。

腸内環境を整えるには納豆やみそなどの発酵食品や乳酸菌がおすすめ。野菜やきのこ、海藻など食物繊維を多く含む食べ物も効果的です。

炎症対策と同時に不足しがちな鉄を食事で補給します。鉄を多く含む食材の代表は赤身肉。卵や魚介類も鉄やビタミン、ミネラルが豊富でおすすめの食材です。

タンパク質が不足しがちな高齢者は1回の食事で肉、卵、魚介類などのタンパク質から2種類は選び、バランスよく食べましょう。ひとつの食材ばかりに偏ると、遅発型フードアレルギー(原因となる食物を摂取して数時間〜数日経ってから症状が現れるアレルギー)のリスクがあるので、いろいろな食材をローテーションして食べます。

レモンや梅干し、酢など酸味のあるものといっしょに食べると、腸での鉄の吸収率がアップします。腸に負担がかからないよう、よく噛んで食べることも大切です。

食事を変えることで、うつ状態がすべて消えるケースもあるそうです。心当たりがある場合は、一度、毎日の食事を見直すとよいでしょう。

おくだいら ともゆき●医療法人山口病院精神科部長、日本栄養精神医学研究会会長。
日本大学医学部卒後、広尾病院などを経て現職。
日本うつ病学会評議員。認知症専門医。漢方専門医。
「メンタルヘルスは食事から」をモットーに、食事や栄養、漢方を取り入れた治療を実践。
著書に『ココロの不調回復食べてうつぬけ』(主婦の友社)。

(ノジュール2018年5月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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