いつまでも元気に旅しよう!病に勝つカラダ 第18回

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慢性炎症と健康長寿

新井康通先生
(文:大政智子 イラスト:安齋 肇)

近年、100歳以上でも元気に過ごす、超高齢者が増えています。
100歳以上の高齢者を長期にわたり追跡した結果、健康長寿に体内の慢性炎症が関係していることがわかりました。
超高齢者に学ぶ“長寿のメカニズム”をご紹介します。

加齢に伴う慢性炎症が寿命に影響日本は世界でもトップクラスの長寿国です。昨年、厚生労働省が発表したデータによると、100歳以上の高齢者は6万7824人、今年の3月末までに100歳になる人は3万2097人と過去最多の数字になりました。

初めて100歳以上の人数を調査した1963年には153人、1万人を突破したのは1998年、5万人を突破したのは2012年と、右肩上がりに増えていることがわかります。

ただ、長生きできても、寝たきりなのか元気に過ごせているかで、生活の質はずいぶん変わります。

今月は、慶應義塾大学医学部、百寿総合研究センターの新井康通先生に健康長寿のカギとなる「慢性炎症」についてお話を伺いました。

慢性炎症とは、マクロファージやリンパ球と呼ばれる免疫細胞が、持続的に炎症を起こしている状態です。

炎症は体の防御反応です。免疫細胞は、体外から異物が侵入したらそれをやっつけたり、死んだ細胞や傷ついた細胞があるとそれを修復したりするのですが、その際、炎症を起こす物質を出しています。炎症は体を守るための防御反応なのです。

異物が退治され、細胞が修復されれば治まる、一時的なものは急性炎症と呼ばれます。カゼや肺炎などの感染症のほか、ねんざや外傷などのケガで生じるものが急性炎症の代表格です。

一方、終わらずにずっと続くのが慢性炎症。例えれば、大きな火事にはならず、小さな火がずっとくすぶり続けているようなものです。

もともと、慢性炎症は病気に関係していることがわかっていました。血管の慢性炎症は動脈硬化ですし、肥満による慢性炎症が糖尿病や高血圧を招き、歯周病の炎症が続くと歯が抜けるなど病気との関連が指摘されています。

そんななか、慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターは、健康長寿と慢性炎症との関連に着目し、百寿者(100歳以上の高齢者)684人を含む1554人を、最長で10年間にわたり追跡調査を行いました。

その結果、慢性炎症の程度は加齢に伴って徐々に上がっていくけれど、同じ年代のなかで慢性炎症の程度が低い人のほうが、元気で長生きであることがわかったのです。

炎症を抑えるのは青魚と運動長寿のエリートである百寿者、超百寿者(105歳以上)、スーパーセンチナリアン(110歳以上)は、遺伝の関与もあると言われていますが、それは2〜3割程度。やはり生活習慣、つまり“生まれつき”ではない要因がかなり影響しています。

新井先生らの研究によると、健康長寿との関連がもっとも認められたのが慢性炎症でした。炎症が低い人ほど身体状態がよく、寿命が長くなるそうです。

加齢に伴う慢性炎症がどこで起こるのかはまだ明らかになっていません。老化した細胞や免疫細胞から出ているのではないかと推察されていて、マウスなどの実験でも確認されています。

細胞の老化は止めようがありませんが、免疫細胞から出る炎症物質は、肥満を解消することなどで、ある程度は抑制できます。

新井先生の研究グループは、慢性炎症の状態を血液中のCRP、インターロイキン6、TNF-α、サイトメガロウイルス抗体価でチェックします。

このうち、インターロイキン6とTNF-αは、肥満した脂肪組織にマクロファージなどの免疫細胞が入り込んで出しています。肥満していない脂肪組織ではこうした反応は起こらないので、太っていないほうが炎症の程度が低いことになります。

現在、炎症を抑える作用が確認されているのは、青魚などに含まれるEPAやDHAなどのオメガ3系脂肪酸です。ほかに適度な運動も効果的だと言われています。健康長寿のためには肥満しないように食事を腹八分目にし、青魚を積極的に摂り、適度な運動をするのがいいということになります。100歳を超える長寿者の研究で、それが裏付けられたことになります。

新井先生らは老化した細胞が出すマーカー(目印)を特定し、それだけを抑制することができれば、新薬の開発につながるのではないかと期待し、研究を続けているそうです。

あらい やすみち●慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター/総合診療科、専任講師。同大学医学部卒業。
老化関連のバイオマーカーを研究。百寿者、超百寿者の疫学調査を通じ、健康長寿のメカニズムを明らかにする研究に取り組む。
高齢者の健康増進、介護予防法の開発を目指す。

(ノジュール2018年6月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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